論文抄録

第121巻第11号

平成28年度日本眼科学会学術奨励賞受賞論文総説

マイクログリアとマクロファージ―網膜変性にて炎症を引き起こし視細胞死を促進する2つの貪食細胞
神野 英生1)2)
1)東京慈恵会医科大学眼科学講座
2)独立行政法人労働者健康福祉機構東京労災病院眼科

視細胞死は加齢黄斑変性や網膜色素変性などの変性疾患において失明に直結する現象である.中枢神経系である視細胞は一度ダメージを受けるとその後の再生は不可能であることから,網膜変性の治療においてはどのようにして視細胞を保護していくのかを検討していくことが重要である.蓄積されつつある研究結果により網膜内で炎症を生じる原因となりうる細胞として,網膜内在住マクロファージであるマイクログリアおよび網膜外(血流)から侵入したモノサイト由来マクロファージが挙げられ,これらの細胞由来の炎症により視細胞死は加速されることが明らかとなってきた.しかしながら,網膜変性を生じた網膜内でいつ,どのようなタイミングで,どうしてこれらの細胞が活性化し炎症へと至るのかは不明な点が多く,これらを明らかにするべく我々は研究を行っている.従来においてマイクログリアおよびマクロファージを識別するのは技術的に困難であった.そこで,我々はマイクログリアとマクロファージを識別できる網膜変性自然発症モデル“Mertk-/-Cx3cr1GFP/+Ccr2RFP/+マウス”を作製した.このマウスを観察すると,網膜変性の発症とともにCx3cr1陽性マイクログリアが網膜内層より網膜下腔へ向けて遊走を開始し,次いでCcr2陽性マクロファージが侵入し網膜下腔へと集積した.休止期のマイクログリアはCx3cr1単陽性であったのに対し,網膜下腔へ侵入し視細胞外節を貪食したアメーバ状活性化マイクログリアはCx3cr1/Ccr2両陽性となっていた.一方,網膜変性を生じないMertk+/+Cx3cr1GFP/+Ccr2RFP/+マウスにおいては網膜内に休止期のCx3cr1陽性マイクログリアのみを認めCcr2陽性マクロファージは認めなかった.Mertk-/-Cx3cr1GFP/+Ccr2RFP/+マウスは視細胞死に伴い活性化を呈するマイクログリアおよびモノサイト由来マクロファージを識別して観察することが可能な網膜変性自然発症モデルであり,マイクログリア/マクロファージから由来する炎症を標的とした網膜変性における視細胞保護を狙う治療戦略開発に有用である.(日眼会誌121:815-828,2017)

キーワード
マイクログリア, マクロファージ, ケモカイン, 視細胞, 細胞遊走, 炎症
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