論文抄録

第121巻第11号

平成28年度日本眼科学会学術奨励賞受賞論文総説

視細胞変性霊長類モデルへのヒト胚性幹細胞由来網膜組織移植
白井 博志
名古屋大学大学院医学系研究科眼科学

網膜色素変性は進行性の視細胞変性によって惹起される遺伝性疾患であり,進行すると重篤な視機能障害が引き起こされる.現時点で有効な治療法はほとんどない.最近,視細胞移植の有効性が齧歯類にて示唆され注目されている.加えて,ヒト胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)およびヒト人工多能性幹細胞を分化誘導することで,臨床に用いることができるレベルの立体的な網膜移植片が作製できるようになった.今回我々は,ヒトES細胞由来網膜組織の臨床的有用性を段階的に検討した.まずヒトES細胞由来網膜組織を免疫不全ラットに移植することで移植片としての有用性を確認した.次いで,二種類の視細胞変性サルモデルを作製し,その有用性を評価した.最後にヒトES細胞由来網膜組織のサルモデルへの移植を行い,移植片の成熟を確認した.免疫組織学的検討により,移植片とホスト網膜のシナプス形成も示唆された.以上の結果により,将来の臨床応用における移植方法の最適化にふさわしいモデルが提供されるとともに,ヒトES細胞由来網膜組織移植の臨床応用の可能性が示された.(日眼会誌121:837-846,2017)

キーワード
ヒト胚性幹細胞, 視細胞, 移植, 霊長類モデル
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