論文抄録

第122巻第3号

特別講演I

第121回 日本眼科学会総会 特別講演I
代謝阻害薬を用いる線維柱帯切除術:誕生から退場まで
山本 哲也
岐阜大学大学院医学系研究科眼科学分野

緑内障による失明回避のためには緑内障手術を必要とすることが多い.本総説ではまず濾過手術の歴史について触れた後,マイトマイシンC併用線維柱帯切除術(以下,MMC-Trab)の開発過程を記述し,10~25年にわたるデータをもとに同手術の現在の成績について述べた.最後に近未来の緑内障手術についての著者の予測を記した.
濾過手術は19世紀に起源を持つ古い手術であるが,近代的な濾過手術の発展は強膜フラップの作製とMMC-Trabの確立に負うところが大きい.岐阜大学眼科を中心とするMMC-Trabの研究成果を述べるとともに,岐阜大学眼科における管理症例のデータを用いて眼圧,視機能,失明回避という点からMMC-Trabの新しい成績を呈示した.また,特に術前眼圧の低い症例に対する手術成績を開示した.MMC-Trabが現在の緑内障管理に重要な位置を占めていることを示した.
MMC-Trabは長期にわたり十分な眼圧下降をもたらすことを可能とした初めての緑内障治療法である.ここから本手術を緑内障病因論にかかわる壮大な実験系とみなすことができる.すなわち「眼圧を十分に下降させれば緑内障の進行は停止するか」という命題に対して臨床的見地から回答を得ることができる可能性を秘める.この点に関する著者らの検討結果を呈示し,“十分な眼圧下降”で視野障害進行のほぼ確実な停止が起こる可能性の高いことを示した.
緑内障手術は今大きな変革期にある.術式や手術器具の多様性が最近の緑内障手術の特徴ともなっている.近未来の緑内障治療体系における手術療法の位置づけについて著者の見解を披露した.その結果,minimally-invasive filtering surgeryの時代となり,MMC-Trabが勢いをなくす可能性が高いと予測した.(日眼会 誌122:155-170,2018)

キーワード
緑内障, 濾過手術, 線維柱帯切除術, マイトマイシンC, 代謝阻害薬, 眼圧, 視野, 正常眼圧緑内障, 原発開放隅角緑内障, 低侵襲緑内障手術
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