背 景:Colobomatous cystは眼球発生時の視神経裂の閉鎖不全に起因して生じる神経外胚葉系の囊腫である.典型例では小眼球を伴い,時に囊腫による下眼瞼の膨隆を来すため,比較的幼少期に発見される.
症 例:59歳,女性.幼少期に左視力不良を指摘されていたが,精査は受けなかった.約1年前から左眼角膜混濁と眼痛が出現し,近医で受けた画像検査で左眼窩腫瘍を指摘され当科紹介となった.初診時の視力は右(1.2),左光覚なしであった.右眼は軽度白内障のほかに特記すべき所見は認めなかった.左眼は角膜混濁のため前房,眼底の透見は不良であった.造影magnetic resonance imaging(MRI)で左眼球後方に硝子体腔内と連続する憩室状構造を認め,視神経は囊腫に連続していた.画像所見からcolobomatous cystを疑った.眼痛が増悪したため,左眼球摘出術を施行した.術後に眼痛は消失した.病理組織学的検査では囊腫は網膜様組織の内層と,強膜と連続する膠原線維の外層で構成されており,colobomatous cystと診断した.眼球には虹彩ルベオーシスや第一次硝子体過形成遺残を疑う所見を認め,角膜混濁や硝子体出血の起因となったと考えられた.眼痛の原因として続発緑内障による眼圧上昇が考えられた.
結 論:長期にわたって診断されず,片眼の角膜混濁と眼痛を契機に発見に至ったcolobomatous cystの症例を経験した.Colobomatous cyst例では長期経過後に角膜混濁や眼痛が出現する可能性があることが示唆された.(日眼会誌123:39-44,2019)