論文抄録

第123巻第2号

基礎研究

特集 学会原著:第122回日眼総会
酸化ストレスによる網膜色素上皮の蛍光寿命変化
三浦 央子1)2)3), Britta Lewke1), Alessa Hutfilz1), Ralf Brinkmann1)3)
1)Institute of Biomedical Optics, University of Luebeck
2)Department of Ophthalmology, University of Luebeck
3)Medical Laser Center Luebeck

目 的:蛍光寿命眼底検査(FLIO)は,眼底の蛍光寿命を測定する新しい検査法である.本研究では,酸化ストレス負荷下の網膜色素上皮(RPE)の自発蛍光寿命の変化を実験的に調べた.
対象と方法:器官培養豚眼RPEに0,1.5,3 mMの過酸化水素(H2O2)を添加し,24,48時間後のRPE自発蛍光寿命をFLIO〔励起波長473 nm,検出域:498~560 nm(Ch1),560~720 nm(Ch2)〕で測定した.細胞生存率および細胞内活性酸素(ROS)はカルセインおよび2',7'-dichlorofluorescein diacetateにてそれぞれ測定した.
結 果:全H2O2濃度にて,曝露48時間以内のRPE生細胞率の有意な減少は認められなかった.細胞内ROS量は,24時間後は有意な変化はなく,48時間後に濃度依存性の増加がみられた.FLIOでは,H2O2の濃度・曝露時間依存性の蛍光寿命(τ)の延長と,短-長蛍光寿命の成分割合比(a1/a2)の減少がみられ,それらは短波長域(Ch1)でより顕著であった.
結 論:FLIOを用いてRPEの酸化ストレスを非侵襲的に検出できる可能性が示唆された.H2O2による直接的影響は,短波長域で検出されやすいと考えられた.臨床でのFLIO活用に向けて,さらなる検討が必要である.(日眼会誌123:105-114,2019)

キーワード
網膜色素上皮, 酸化ストレス, 蛍光寿命, 蛍光寿命眼底検査, 細胞エネルギー代謝
別刷請求先
Institute of Biomedical Optics, University of Luebeck 三浦 央子
miura@bmo.uni-luebeck.de