論文抄録

第116巻第10号

臨床研究

新しい調節訓練器を使用した初期近視学童の多パラメーター1年変化―裸眼視力·屈折値·眼軸長·調節機能·瞳孔反応の経時変化
渡邉 久美子1), 原 直人1), 君島 真純1), 小手川 泰枝1), 大野 晃司1), 有本 あこ1), 向野 和雄1), 久原 聡2), 堀江 秀典1)
1)神奈川歯大学附属横浜クリニック眼科
2)パナソニックヘルスケア株式会社

目 的:網膜像の大きさと照度が一定な視標でボケ刺激だけを与える視覚刺激装置を用い近視学童に訓練を行った.訓練が与える影響について裸眼視力,調節麻痺下屈折値,眼軸長,動的調節機能,瞳孔反応量を測定し検討する.
対象と方法:近視以外の眼科疾患がない近視学童45名.平均年齢は8.9±2.0歳(6~16歳).平均屈折値は-1.56±0.58 D.装置は黒背景のliquid crystal display(LCD)画面に距離に関係なく視標の大きさが網膜像に対し一定にした白色リングを視覚刺激として,近方から遠方へと高速度で移動させボケのみを誘発し,調節弛緩相の視覚刺激として訓練を行った.訓練前と訓練3か月ごとの裸眼視力,調節麻痺下屈折値,眼軸長,動的調節機能,瞳孔反応量を検討した.
結 果:対象45名中3か月間継続して訓練できた者42名(93%),6か月間33名(73%),9か月間23名(51%),12か月間21名(47%)であった.屈折値は1年で平均0.83±0.56 D(平均値±標準偏差)近視化し,眼軸長は0.47±0.16 mm伸展しており,視力向上効果は低いものとなった.動的調節機能検査では調節相潜時は訓練前0.4±0.2秒から1年後0.3±0.1秒に短縮され,調節相利得は69.0±27.0%から93.3±13.4%に改善,調節相最高速度は5.1±2.2 D/secから6.8±2.2 D/secへと上昇し,弛緩相利得は52.1±26.0%から72.7±13.7%へと有意に改善した(対応のあるt検定,p<0.005).瞳孔反応量では有意差は得られなかった.
結 論:本訓練器は調節機能および調節緊張持続状態の改善に有用で,環境要因の大きい弱度近視で近視進行の抑制につながる可能性が考えられた.(日眼会誌116:929-936,2012)

キーワード
近視, 学童, 動的調節機能, 屈折値, 眼軸長
別刷請求先
〒221-0835 横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6 神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科 原 直人
naoto.hara@kdcnet.ac.jp