多くの視力低下に共通する要因として,網膜新生血管からの出血や眼内炎症などによる硝子体の透明性低下が挙げられる.硝子体失透に対する治療法開発の糸口として,個々の病態を分析することも重要であるが,“硝子体がなぜ透明性か”を理解することも大切である.
本総説では,グリコサミノグリカン(糖鎖)である可溶性ヘパラン硫酸が硝子体液中に高濃度で存在することと,それが硝子体内腔に遊出したヘパリン結合蛋白質である血管内皮増殖因子(VEGF)を不活化することにより,網膜血管の硝子体内迷入を防ぐ役割を担っていることを紹介する.さらに,眼内可溶性グリコサミノグリカンが,同じくヘパリン結合蛋白質である炎症性サイトカインCCL2の機能も阻害し,炎症を抑制しうることを提示する.これらの一連の実験から,硝子体中のグリコサミノグリカンが,VEGFやCCL2などのさまざまなヘパリン結合蛋白質に対して,共通の阻害剤として作用していると推定される.そして,この糖鎖が,それらの蛋白質質分子のシグナリングを制御することにより,血管内皮細胞や炎症細胞の硝子体内への侵入を防ぎ,硝子体の透明性維持に寄与している可能性が示唆される.(日眼会誌116: 1052-1061,2012)