症 例:右眼角膜移植術後の76歳女性に同側の涙嚢炎を生じ,経過中に悪臭症を生じた.涙嚢内貯留物から2種の酵母様真菌を分離,培養菌株は特有の芳香を有していた.異常嗅感は鼻涙管洗浄と抗真菌薬内服では改善しなかった.経過中に涙嚢炎を繰り返し異常嗅感が持続するため涙嚢摘出術を施行した.摘出した涙嚢内容からは同じ2種の酵母様真菌を検出した.病理組織診では涙嚢内壁に菌糸成分を認め真菌性涙嚢炎と診断した.涙嚢摘出後,悪臭症は速やかに消失した.分離した真菌はDNA塩基配列の解析によりWickerhamomyces anamalus(Pichia anomala-Candida pelliculosa)およびGalactomyces geotrichum(Geotrichum candidum)と同定された.
結 論:涙嚢内容に存在した2菌種は異常嗅感の原因である臭いの発生源となり得るもので,悪臭症の病原真菌と考えられた.涙道管理の不徹底に角膜移植後の抗菌薬点眼と副腎皮質ステロイド点眼使用が加わって涙嚢内の真菌の常在化を惹起し涙嚢炎の誘因となった可能性があり,角膜移植症例の涙道管理と長期点眼使用には注意を要する.(日眼会誌116:1144-1149,2012)