論文抄録

第116巻第6号

臨床研究

硝子体手術を施行したStage 3A Coats病5症例の長期予後
中島 浩士, 恵美 和幸, 佐藤 達彦, 岩橋 千春, 坂東 肇, 池田 俊英
大阪労災病院勤労者感覚器障害研究センター

目 的:Coats病に対する治療では,網膜異常血管に対する光凝固や冷凍凝固が有効とされているが,滲出性網膜剥離を伴う症例では,異常血管の凝固,瘢痕化が得られにくく,滲出性変化が遷延し,複数回の治療を要する場合も少なくない.今回我々は,黄斑部剥離を伴うStage 3A(全剥離に至らない滲出性網膜剥離を合併する)Coats病症例に対し硝子体手術を施行し,その長期予後について検討した.
方 法:対象は,1999年から2009年の間に,Stage 3A Coats病に対して初回硝子体手術を施行した5例5眼である.全例男性で,手術時の平均年齢は13.8歳(6~21歳),術前の小数換算平均視力は0.1(0.04~0.5),術後平均経過観察期間は83か月(13~137か月)であった.硝子体手術では後部硝子体剥離を確認または作製し,意図的裂孔より網膜下液を排液した後,異常拡張血管に対して眼内ジアテルミーもしくは光凝固を用いて凝固して,長期滞留ガスもしくは空気で硝子体腔を置換した.各症例の術前後の視力および眼底所見の変化について後ろ向きに検討した.
結 果:視力変化について,術前,術3か月後,術12か月後,最終受診時の小数換算平均視力はそれぞれ0.1,0.2,0.2,0.4で,4群間で有意差を認め(p=0.007),術前視力に比較して,術12か月後および最終受診時視力は有意に(p<0.05)改善していた.眼底所見について,硝子体腔の気体が消失した時点で,5眼全例で黄斑部網膜の復位が得られていた.術前には5眼全例で中心窩に黄色滲出物を認めたが,術後経過観察中に消失した.完全に消失するまでの術後平均期間は20か月であった.一方で,中心窩下線維性組織形成を5眼中4眼で認め,中心窩網脈絡膜萎縮を5眼中3眼で認めた.
結 論:Stage 3A Coats病に対して硝子体手術を施行することで,早期の網膜復位と最終的な中心窩滲出物の消失が得られ,従来の光凝固や冷凍凝固と比較して視力予後が改善する可能性が示唆された.(日眼会誌116:560-567,2012)

キーワード
Coats病, 硝子体手術, 網膜下液, 中心窩滲出物, 中心窩下線維性組織
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