目 的:本邦におけるPaecilomyces属による眼感染症の特徴を明らかにする.
方 法:Paecilomyces属による眼感染症として本邦で報告された14例15眼ならびに自験例4例4眼の計18例19眼を対象とした.Paecilomyces属による眼感染症の病態,発症原因,薬剤感受性および予後などについて本邦での報告例ならびに診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.
結 果:平均年齢は69歳(レンジ:33~90歳)で,男性10例,女性8例であった.患側は右眼9例,左眼8例および両眼1例であった.病型は,初期では角膜炎(角膜限局例)および眼内炎はそれぞれ14眼および5眼であったのが,最終では角膜炎(角膜限局例),角膜炎(眼内炎症波及例)および眼内炎はそれぞれ2眼,12眼および5眼であった.発症契機としては手術および外傷が最も多く,次にソフトコンタクトレンズ使用であった.また,副腎皮質ステロイド薬の使用,糖尿病,高齢者および冬季などが発症誘因として考えられた.薬剤感受性では,アムホテリシンB,フルシトシンおよびフルコナゾール(FLCZ)など従来の抗真菌薬には低感受性であったが,近年市販されたミカファンギンおよびボリコナゾール(VRCZ)には高い感受性を示した.予後は,最終視力で指数弁以下(眼球摘出および眼球癆を含む)が60%を占め,角膜穿孔および眼球摘出に至ったのはそれぞれ42%および11%であった.最終病型別では,角膜炎(角膜限局例),角膜炎(眼内炎症波及例)および眼内炎において,それぞれ0%,50%および100%で指数弁以下に至った(p=0.0446).また治療に用いられた抗真菌薬別では,FLCZ,イトラコナゾール,ミコナゾールおよびVRCZにおいて,それぞれ90%,80%,100%および71%で最終的に指数弁以下あるいは観血的治療に至った(重複あり).
結 論:Paecilomyces属による眼感染症では,眼内にいったん炎症が波及すると感受性を有する抗真菌薬を用いても予後はきわめて不良である.(日眼会誌116:613-622,2012)