論文抄録

第117巻第12号

臨床研究

涙液中抗緑膿菌特異的分泌型IgA抗体の検討
中島 基宏, 稲田 紀子, 加藤 博司, 庄司 純, 澤 充
日本大学医学部視覚科学系眼科学分野

目 的:緑膿菌に対する免疫応答によって生じる涙液中の抗lipopolysaccaride特異的分泌型IgA抗体(LPS-sIgA)および抗exotoxin A特異的分泌型IgA抗体(ETA-sIgA)についての検討.
対象と方法:対象は,コンタクトレンズ(CL)装用歴のない健常成人ボランティアからなる健常群41例41眼,眼合併症のない健常CL装用者からなるCL群32例32眼,病巣から緑膿菌が分離培養されたCL関連角膜潰瘍症例からなる潰瘍群12例12眼である.各群において,濾紙法により涙液採取後その抽出液を使用して涙液中LPS-sIgAおよびETA-sIgAをenzyme-linked immunosorbent assay法で測定した.
結 果:LPS-sIgAおよびETA-sIgAの測定下限値はともに1.24 U/mlであった.測定下限値以上を抗体陽性とし,LPS-sIgAの抗体陽性率は,健常群では22眼中17眼(中央値2.00 U/ml,レンジ:1.28~7.20),CL群では25眼中15眼(中央値1.76 U/ml,レンジ:1.24~6.92),潰瘍群では12眼中1眼(1.80 U/ml)であった.ETA-sIgAの抗体陽性率は健常群41眼中36眼(中央値6.56 U/ml,レンジ:1.36~182),CL群では32眼中28眼(中央値5.40 U/ml,レンジ:1.56~29.20),潰瘍群では12眼中5眼(中央値が1.72 U/ml,レンジ:1.40~2.16)であった.またLPS-sIgAおよびETA-sIgAの抗体価は,健常群と比較してCL群で有意差はみられなかったが,潰瘍群で有意に低値を示した(p<0.01,Steel多重比較法).
結 論:健常成人と健常CL装用者では,涙液中に抗LPS特異的sIgA抗体と抗ETA特異的sIgA抗体を保有し,緑膿菌角膜炎に対する防御抗体として作用している可能性が考えられた.(日眼会誌117:996-1003,2013)

キーワード
エクソトキシンA, リポポリサッカライド, 緑膿菌, 分泌型IgA, 涙液
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