論文抄録

第117巻第2号

臨床研究

感染性角膜炎における涙液中ケモカインの検討
堀 眞輔, 庄司 純, 稲田 紀子, 澤 充
日本大学医学部視覚科学系眼科学分野

目 的:感染性角膜炎症例の病態を検索するために,涙液中ケモカインプロファイルの検討を行う.
対象と方法:対象は,片眼に角膜病変を有し,かつ他眼に前眼部疾患を有しない感染性角膜炎症例16例32眼(男性10例,女性6例),および健常対照5例5眼(対照群)である.感染性角膜炎症例は原因微生物別に,細菌性10例(細菌群)〔緑膿菌6例,coagulase negative Staphylococcus(CNS)3例,モラクセラ1例〕,年齢25.6±10.4(平均値±標準偏差)歳とアカントアメーバ角膜炎6例(アメーバ群),平均年齢31.8±10.1歳との2群に分類した.方法は対象眼を感染性角膜炎症例の罹患眼と非罹患眼および対照群の右眼とし,対象眼からSchirmer第I法に準じた濾紙法で涙液を採取した.涙液中ケモカイン濃度の測定には抗体アレイ法を用いた.メンブレン中のスポットからdensitometry法により発光度(OD:Odu/mm2)を算出し,涙液中ケモカインプロファイルを作成し検討した.
結 果:細菌群では,罹患眼で非罹患眼に対し有意に上昇を示した(p<0.05)ケモカインは,interleukin-8(IL-8)〔罹患眼418.2±237.7(平均値±標準偏差)Odu/mm2,非罹患眼241.6±160.9〕,monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)(罹患眼152.1±82.9,非罹患眼130.2±85.1)であった.また,有意に低下していた(p<0.05)ケモカインは,mucosae-associated epithelial chemokine(MEC)(罹患眼94.7±98.2,非罹患眼平均199.6±184.9)であった.罹患眼と対照群との比較では,罹患眼でMEC(罹患眼94.7±98.2,対照群813.6±324.5)が有意に低値であった(p<0.05).アメーバ群では,罹患眼と非罹患眼との間で統計学的に有意に変化したケモカインはみられなかった.罹患眼と対照群との比較では,罹患眼でMECが有意に低値であった(p<0.05).細菌群とアメーバ群におけるケモカイン比の検討では,緑膿菌角膜炎でIL-8/MECが,アカントアメーバ角膜炎でMCP-1/IL-8が有意(p<0.05)に高値を示した.
結 論:感染性角膜炎における涙液中ケモカインプロファイルおよびケモカイン比の検索は,感染性角膜炎の病態の検討に有用な一因子である可能性が考えられた.(日眼会誌117:117-125,2013)

キーワード
涙液中ケモカイン, 細菌性角膜炎, アカントアメーバ角膜炎, interleukin-8(IL-8), monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1), mucosae-associated epithelial chemokine(MEC)
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