論文抄録

第118巻第11号

平成25年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説

ポリープ状脈絡膜血管症に関する新知見と治療への展開
古泉 英貴
東京女子医科大学眼科学教室

ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)は本邦で頻度の高い滲出型加齢黄斑変性の一型であり,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)において特徴的なポリープ状病巣を有することが診断の根拠となるが,その病態は未だに不明な点が多い.
我々は従来の検眼鏡的検査や蛍光眼底造影,光干渉断層計(OCT)に加え,新規の非侵襲的眼底イメージング法,具体的には眼底自発蛍光撮影と簡便な脈絡膜断層撮影法であるenhanced depth imaging OCTを軸としてPCVのさらなる病態メカニズムの理解に有用な新知見を見出してきた.
今回,我々が特に注目した脈絡膜血管透過性亢進所見は,IA中後期でみられる多巣性の脈絡膜内蛍光漏出所見であり,古くから中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)の特徴的所見として知られてきた.我々の自験例ではPCV 89例中31例(34.8%)においても脈絡膜血管透過性亢進所見がみられたことより,同所見の有無はPCVの臨床像に何らかの影響を与えているものと推測し,その観点からさまざまな臨床因子との関連の考察を行った.その結果,脈絡膜血管透過性亢進所見のあるPCVでは同所見のないPCVと比較してCSCの既往歴を有することが多く,両眼性のPCVの頻度が高く,また脈絡膜が有意に肥厚していた.さらに脈絡膜血管透過性亢進所見を有するPCVでは抗血管内皮増殖因子薬であるラニビズマブによる治療効果が弱いことも明らかになった.
我々の研究結果はPCVの新たな病態理解とそれに基づいた治療戦略の展開への一助となりうると考えられた.(日眼会誌118:927-942,2014)

キーワード
ポリープ状脈絡膜血管症, 脈絡膜血管透過性亢進, 血管内皮増殖因子, 光干渉断層計, 脈絡膜厚, 眼底自発蛍光
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