抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法に関する多くの大規模臨床スタディが実施され,その有用性が報告されている.そのエビデンスに基づき,加齢黄斑変性のみならず糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症など網膜血管病においても抗VEGF療法がより重要な治療選択肢となることが予想される.
糖尿病網膜症における線維血管増殖膜において血管新生とともに白血球の浸潤が観察され,白血球がその病態に重要であることが知られている.また線維血管増殖膜は新生血管(血管内皮細胞,ペリサイト)とともに,その間質(細胞外マトリックス,筋線維芽細胞,白血球)によって構成されており,これら細胞群がその病態を決定すると考えられる.
我々は抗VEGF療法における浸潤白血球への影響について,①マウス網膜血管新生モデル,②糖尿病患者の線維血管増殖膜を用いて検討を行った.また,その他の細胞成分への影響について,②線維血管増殖膜を用いて検討を行った.
抗VEGF療法により炎症時に観察される白血球の組織浸潤,血管内への再進入がともに抑制されること,血管収縮,ペリサイト被覆が誘導されること,また抗炎症作用を示すtransforming growth factor-β(TGF-β)の発現が観察された.これらの結果から,抗VEGF療法が血管収縮,血管成熟化とともに抗炎症作用を有することより,網膜浮腫改善や術中出血予防の効果を示すことが示唆される.(日眼会誌118:943-952,2014)