遺伝性眼疾患において,遺伝子治療や原因遺伝子に基づいた薬物療法の臨床研究が始まっている.遺伝子の変化を手がかりに病態を解明し,そのメカニズムに基づいた治療を行っていく道筋が見えはじめており,遺伝情報に基づいた個別化医療の究極のかたちとして遺伝子治療や再生医療が位置づけられている.遺伝性視神経疾患と網膜変性疾患に対して,原因となる遺伝子の変化を効率よく解析するシステムを構築することを目的に,Sanger法によるシークエンシングとDNAマイクロアレイリシークエンシングによる遺伝子変異解析の検討を行った.また,新たな遺伝情報の解析装置として次世代シークエンサーの可能性を検討した.従来のSanger法により候補遺伝子を逐次解析する方法は,表現型と遺伝子型の相関が明確な例に限り有用であった.一方,DNAマイクロアレイリシークエンス解析は,一塩基の欠失や挿入を検出できないなどの欠点はあるものの短時間で多数の候補遺伝子についてシークエンス解析を行うことが可能であった.Leber先天盲11家系のうち3家系(27.3%)に変異を同定することができた.解析の速度と精度を上げるためには,次世代シークエンサーの応用が期待されるが,大量に得られる遺伝情報をどのように迅速に分析し意味付けをして診療に役立てることができるかが課題となる.個別化医療が目指されるなかで,大量の遺伝情報と向き合うことになるのは,研究者や医師だけでなく,患者も同様である.遺伝カウンセリングのあり方も含めて,遺伝子診療を眼科診療のなかでどのように取り入れていくかのコンセンサスの形成が必要である.(日眼会誌118:283-298,2014)