論文抄録

第118巻第4号

臨床研究

春季カタルにおけるタクロリムス点眼液治療の臨床経過の検討
原田 奈月子, 稲田 紀子, 石森 秋子, 庄司 純, 澤 充
日本大学医学部視覚科学系眼科学分野

目 的:タクロリムス点眼薬で治療を行った春季カタル症例の臨床経過を後ろ向きに検討する.
対象および方法:対象はタクロリムス点眼薬と抗アレルギー点眼薬との二者併用療法で治療し,その後6か月間の経過観察が可能であった春季カタル30例(男性24例,女性6例)である.対象症例は,副腎皮質ステロイド点眼薬をタクロリムス点眼薬に切り替えて治療した群(切り替え群)21例〔年齢14.7±9.44歳(±標準偏差)〕と抗アレルギー点眼薬単独治療にタクロリムス点眼薬を加えて治療した群(追加群)9例〔年齢28.2±7.31歳(±標準偏差)〕との2群に分けて検討した.タクロリムス点眼薬の治療効果は,乳頭·輪部·角膜スコアおよび涙液eosinophil cationic protein(ECP)値について経時的に検討した.また,経過観察中にみられた再燃および前眼部感染症についてもあわせて検討した.
結 果:症例全体の乳頭·輪部·角膜スコアの経過は,点眼開始時のスコアが8点(中央値)であったのに対して,点眼開始後1か月のスコアは5点と有意な低下がみられた(p<0.01,多重比較Steel法).症例全体の涙液ECP値は,点眼開始時の中央値は3,493.6 ng/ml,点眼開始後1か月は205.6 ng/mlと有意な低下がみられた(p<0.05,多重比較Steel法).経過中,再燃例が30例中4例にみられたが,前眼部感染症はなかった.
結 論:春季カタルに対するタクロリムス点眼薬の治療は,点眼開始1か月以降で臨床所見および涙液ECP値を減少させる効果があると考えられた.また,治療効果判定や再燃の評価には,乳頭·輪部·角膜スコアおよび涙液ECP値などの臨床的指標を用いた経過観察が有用である.(日眼会誌118:378-384,2014)

キーワード
タクロリムス点眼薬, 春季カタル, 乳頭·輪部·角膜スコア, 涙液eosinophil cationic protein値
別刷請求先
〒173-8610 東京都板橋区大谷口上町30-1 日本大学医学部視覚科学系眼科学分野 原田 奈月子
nharada@med.nihon-u.ac.jp