論文抄録

第119巻第11号

平成26年度日本眼科学会学術奨励賞 受賞論文総説

Atp6ap2/(プロ)レニン受容体の網膜発生期における細胞極性への関与
神田 敦宏
北海道大学大学院医学研究科眼科学分野

レニン・アンジオテンシン系(RAS)は,全身血圧の重要な調節機構であるが(循環RAS),臓器局所では炎症や血管病態に関与する(組織RAS).その中でも(プロ)レニン受容体〔(P)RR〕は,組織RAS活性化のみならずRAS非依存性の細胞内シグナルを伝達して臓器障害の病態生理に寄与することをこれまでに我々は示してきた.また(P)RRは,そのC末端領域断片がATP依存プロトンポンプvacuolar H+-ATPase(V-ATPase)のアダプター蛋白質ATP6AP2と同一分子であり,近年では,RASとは独立した生理機能に関連することが明らかにされた.そこで我々は,網膜におけるAtp6ap2/(P)RRの生理的機能の解明を行うため,Atp6ap2/loxPマウスとCrx-Creマウスを用いて,視細胞特異的なAtp6ap2/PRRコンディショナルノックアウト(CKO)マウスを作製し,免疫組織染色法などによる解析を行った.その結果,Atp6ap2-CKOマウスでは,視細胞への分化に影響は認められなかったが,視細胞を中心とした網膜の層構造が著明に障害され偽ロゼット形成を呈し,網膜電図における視機能低下が著明に認められた.さらに,発生期網膜においてAtp6ap2は細胞極性分子のPar3と網膜頂端側で共局在し,免疫沈降法を用いた解析から,Atp6ap2とPar3が共役することを同定した.これらのことからAtp6ap2/(P)RRは,視細胞の発生においては細胞極性に関わる重要な役割を担っていると示唆される.(日眼会誌119:787-798,2015)

キーワード
レニン・アンジオテンシン系, Atp6ap2, (プロ)レニン受容体, 細胞極性, 網膜発生, 受容体結合プロレニン系
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