論文抄録

第119巻第6号

臨床研究

出血型網膜細動脈瘤の治療後視力に関する臨床研究
浅野 俊文1), 針谷 威寛1)2), 金澤 紘子1), 中澤 徹2), 佐藤 肇1)
1)独立行政法人労働者健康福祉機構東北労災病院眼科
2)東北大学医学部眼科学教室

目 的:出血型網膜細動脈瘤(MA)の治療後視力に関与する要因について検討すること.
対象と方法:対象は,2009年5月から2013年12月までの間に当院を受診した出血型MA 13例13眼である.治療後視力に関与する要因として,年齢,血圧,眼灌流圧,視神経乳頭―網膜細動脈瘤間距離(disc-MA間距離),網膜細動脈瘤―中心窩間距離(MA-fovea間距離),出血面積,治療までの日数,治療前視力,中心窩下出血を検討した.さらに,光干渉断層計による中心窩の網膜断面積を検討した.
結 果:中心窩下出血の有無で群間比較すると,MA-fovea間距離,網膜下出血面積,治療後視力に有意差を認めた(p<0.05).二変量解析の結果,治療後視力(logMAR)は,disc-MA間距離(Spearman順位相関係数rS=-0.61,p<0.05),MA-fovea間距離(rS=-0.79,p<0.01)と有意な負の相関を認めた.重回帰分析の結果,治療後視力(logMAR)は,MA-fovea間距離と有意かつ独立な負の相関を示した(標準偏回帰係数Stdβ=-0.66,t=3.21,p<0.01).また,MA-fovea間距離は,中心窩を中心とする長さ2,000 μm以内の網膜内層断面積比(患眼/僚眼)とは相関せず(rS=-0.33,p=0.30),網膜外層断面積比(患眼/僚眼)と有意な正の相関を示した(rS=0.64,p<0.05).中心窩下出血を生じるMA-fovea間距離のカットオフ値を3,000 μmとすると,感度100,特異度77.8,陽性的中率は66.7,陰性的中率は100であった.
結 論:出血型MAが中心窩に近いほど黄斑部の網膜外層障害は大きく,治療後視力は不良である.中心窩下出血が不明な場合,特にMA-fovea間距離が3,000 μm以内の場合は,中心窩下出血を念頭に置く必要がある.(日眼会誌119:387-394,2015)

キーワード
出血型網膜細動脈瘤, 治療後視力, 網膜細動脈瘤―中心窩間距離, 中心窩下出血
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