論文抄録

第119巻第9号

症例報告

Scedosporium prolificansによる両眼の内因性真菌性網膜下膿瘍の1例
伊野田 悟1), 佐藤 幸裕2), 新井 悠介1), 小幡 博人1), 鈴木 潤3), 蕪城 俊克4), 亀井 克彦5)
1)自治医科大学眼科学講座
2)自治医科大学糖尿病センター
3)自治医科大学臨床感染症センター
4)東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学
5)千葉大学真菌医学研究センター

背 景:両眼の内因性真菌性網膜下膿瘍を発症し,眼球内容物から,検索し得た範囲では本邦初のScedosporium prolificansS. prolificans)が分離された症例を経験した.
症 例:74歳男性.急性骨髄性白血病の治療中に両眼の視力低下を自覚.眼科検査にて,矯正視力は右手動弁,左0.01.右眼は眼球突出,前房内炎症と虹彩新生血管があり,眼底は透見不能であった.左眼は黄斑を含む黄白色・不整円形の網膜下病巣を認めた.血液培養は陰性,C-reactive protein(CRP)とβ-Dグルカンの高値を認め,抗真菌薬と広域抗菌薬を全身投与した.右眼は初診2日後に光覚弁となり,診断を兼ねて眼球摘出した.網膜下病巣より真菌が培養され,S. prolificansと同定された.抗真菌薬の全身投与と,計16回の硝子体内注射で膿瘍は徐々に縮小した.初診から6か月目の左眼・矯正視力は0.1である.
結 論:S. prolificans眼内炎は難治とされているが,反復した抗真菌薬の硝子体内注射の併用が有効と考えられた.(日眼会誌119:632-639,2015)

キーワード
Scedosporium prolificans, 真菌性眼内炎, 網膜下膿瘍, 易感染性宿主
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