背 景:両眼の内因性真菌性網膜下膿瘍を発症し,眼球内容物から,検索し得た範囲では本邦初のScedosporium prolificans(S. prolificans)が分離された症例を経験した.
症 例:74歳男性.急性骨髄性白血病の治療中に両眼の視力低下を自覚.眼科検査にて,矯正視力は右手動弁,左0.01.右眼は眼球突出,前房内炎症と虹彩新生血管があり,眼底は透見不能であった.左眼は黄斑を含む黄白色・不整円形の網膜下病巣を認めた.血液培養は陰性,C-reactive protein(CRP)とβ-Dグルカンの高値を認め,抗真菌薬と広域抗菌薬を全身投与した.右眼は初診2日後に光覚弁となり,診断を兼ねて眼球摘出した.網膜下病巣より真菌が培養され,S. prolificansと同定された.抗真菌薬の全身投与と,計16回の硝子体内注射で膿瘍は徐々に縮小した.初診から6か月目の左眼・矯正視力は0.1である.
結 論:S. prolificans眼内炎は難治とされているが,反復した抗真菌薬の硝子体内注射の併用が有効と考えられた.(日眼会誌119:632-639,2015)