上皮間葉転換(EMT)は,上皮細胞が上皮性を喪失し間葉系の性質を獲得する現象で,炎症や組織の損傷を契機に誘導され,組織の線維化に関連すると考えられている.EMTの過程では細胞―細胞間接着から細胞―細胞外マトリックス間接着へ変化するが,我々は,線維柱帯細胞が細胞外マトリックス刺激によりEMT様変化を来すことを見出し,インテグリン受容体とその裏打ち蛋白質の一つであるパキシリンの活性化がEMT様変化に重要であることを明らかにした.また,網膜色素上皮細胞では腫瘍壊死因子がEMT誘導因子であり,ヒアルロン酸受容体CD44とアクチン細胞骨格との架橋蛋白質であるERM蛋白質ファミリーが網膜色素上皮細胞の上皮性とEMT誘導に関連していた.EMTを制御する新たな薬剤の開発は,損傷した組織の上皮性としての性質と機能の再獲得をめざした新たな治療法となりうると考えている.(日眼会誌120:783-790,2016)