論文抄録

第120巻第3号

特別講演II

第119回 日本眼科学会総会 特別講演II
Humphrey視野計でみる網膜疾患
飯島 裕幸
山梨大学大学院総合研究部眼科学教室

多くの網膜疾患では傍中心暗点や下方視野欠損などがみられ,視覚の質(QOV)を大きく損なう.そこで視機能の評価には視力検査だけでなく中心30度または10度の静的自動視野検査を行うことが勧められる.
Humphrey中心10-2視野で示される光覚感度低下は,中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)では視力低下で予想される以上に高度であり,本症患者が訴える暗さをよく説明できる.急性CSC患者の視野感度低下は網膜下液の高さに比例する.一方,慢性CSC患者では網膜下液が吸収していても,視細胞の器質的障害によって顕著で不可逆性の視野感度低下を示す.
加齢黄斑変性眼では網膜浮腫,網膜下液,脈絡膜新生血管を含む線維性瘢痕あるいは萎縮性変化など,網膜内あるいは網膜下の種々の病変に対応して,種々の程度の光覚感度低下がみられ,中心視野検査で評価できる.また滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学的療法や抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射治療後の視力改善効果は,治療前に行ったHumphrey中心10-2視野検査の平均偏差(MD)から予測することができる.
網膜色素変性で10度以下の視野となった眼では,Humphrey中心10-2視野のMDが直線的に低下し,その傾斜によって疾患の進行が評価できる.本症患者のうちペンシル型視野,すなわち視野中心が正常でその周囲の感度が急峻に低下して絶対暗点となるような形状のTraquairの[視野の島]の症例では,視力は末期まで維持されて0.5以下になる年齢は同等のMD患者に比べて遅れる.
網膜中心動脈閉塞症と比較して網膜動脈分枝閉塞症眼では視力障害は軽度だが,視野欠損は著明で永続し,緑内障眼でみられるような鼻側階段の形状に似る.網膜静脈分枝閉塞症眼におけるフルオレセイン蛍光眼底造影検査での無灌流領域は,Humphrey中心30-2視野検査にて通常著しい光覚感度低下を示すが,その程度は無灌流の程度と相関する傾向にある.裂孔原性網膜剝離眼で剝離網膜部は通常絶対暗点になっているが,手術で復位した網膜部位での視野感度は,通常著明に改善する.(日眼会誌120:190-209,2016)

キーワード
Humphrey視野計, 光覚感度, 平均偏差, 中心性漿液性脈絡網膜症, 網膜色素変性
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