論文抄録

第120巻第3号

評議員会指名講演III

第119回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演III
次世代の眼科治療
角膜の透明性を守るために
臼井 智彦
東京大学医学部附属病院眼科

角膜の透明性を守るために現状では効果的な進行予防や治療法のない,角膜血管新生,瘢痕,TGFBI関連角膜ジストロフィをターゲットに,近未来での実現化を見据えた治療法開発を,特に核酸医薬に着目して検討した.
1.角膜血管新生が生じている際にangiopoietin like protein 2(Angptl2)が高発現しており,角膜血管新生促進因子であることが示された.Angptl2を抑制する製剤として,一本鎖RNAによる発現抑制ツールであるAngptl2 proline-modified short hairpin RNA(pshRNA)を合成し,lipid nanoparticleと組合わせることにより,pshRNAは点眼でマウス角膜全層に到達することが確認され,アルカリ外傷モデルにおいてAngptl2の発現や角膜血管新生を抑制した.よって本点眼製剤は角膜血管新生や瘢痕に対する新しい点眼治療法になる可能性を示した.
2.培養ヒト角膜実質細胞と培養ヒト血管内皮細胞を用いてin vitro tube formation assayを行い,マイクロアレイによって角膜実質細胞にはangiopoietin like protein 7(Angptl7)が高発現していることを突き止めた.そしてAngptl7を発現抑制すると,角膜に血管新生が生じたことより,Angptl7は角膜の無血管維持に重要な分子である可能性を示した.またAngptl7は培養三叉神経に対して軸索伸長作用を呈し,マウス上皮剝離モデルにおいて三叉神経保護作用を示した.Angptl7は抗血管新生ならびに神経栄養因子作用を有するユニークな分子であり,Angptl7を増強する治療法(アゴニスティック核酸など)の可能性を示した.
3.最後にTGFBI関連角膜ジストロフィに対する遺伝子治療として,CRISPR-Cas9システムを用いたone step遺伝子編集について検討した.Avellino角膜ジストロフィ(R124H)患者から角膜実質細胞を培養し,それに対しCRISPR-Cas9と正常配列の一本鎖DNA遺伝子導入を行ったところ,R124H変異が是正され正常遺伝子配列となった.CRISPR-Cas9+一本鎖DNA遺伝子導入はTGFBI関連角膜ジストロフィの根治療法になる可能性を示した.(日眼会誌120:246-263,2016)

キーワード
角膜, 核酸医薬, angiopoietin like protein 2(Angptl2), angiopoietin like protein 7(Angptl7), 遺伝子治療, CRISPR-Cas9
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