論文抄録

第121巻第1号

臨床研究

抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害についての日本角膜学会による実態調査
井上 幸次1), 白石 敦2), 杉岡 孝二3), 横井 則彦4), 近間 泰一郎5), 崎元 暢6), 柏木 広哉7), 佐々木 次壽8)
1)鳥取大学医学部視覚病態学
2)愛媛大学大学院医学系研究科眼科学
3)近畿大学医学部眼科学教室
4)京都府立医科大学大学院医学系研究科視覚機能再生外科学
5)広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学
6)日本大学医学部視覚科学系眼科学
7)静岡県立静岡がんセンター眼科
8)佐々木眼科

目 的:抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害の我が国での実態を把握する.
対象と方法:日本角膜学会の会員全員に対して調査票を配布し,2009年1月から2011年12月の間に経験した抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害の症例に関して,その患者背景・臨床所見・治療および予後についての情報を集積・解析した.
結 果:66施設より221例の報告があり,210例(95.0%)で,抗腫瘍薬としてテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワン,以下,TS-1)が使用されていた.角膜所見は192例(86.9%)であり,その内訳は点状表層角膜症161例(72.9%),クラックライン55例(24.9%),シート状上皮異常38例(17.2%),びらん15例(6.8%)であった.結膜・睫毛所見は,49例(22.2%)で認められた.涙道閉塞・狭窄は81例(36.7%)で認められた.ロジスティック解析の結果,TS-1による障害について,他覚所見および視力の改善に有意に関与する因子として薬剤の中止・変更があげられた.
結 論:抗腫瘍薬,特にTS-1による角結膜障害は,重要な合併症であるが,現状では薬剤の中止・変更以外に有効な治療法がない.今後プロスペクティブな研究でさらなる病態解明と発症予測・予防への方向づけが望まれる.(日眼会誌121:23-33,2017)

キーワード
角結膜障害, 抗腫瘍薬, ティーエスワン, 涙道閉塞・狭窄
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〒683-8504 米子市西町36-1 鳥取大学医学部視覚病態学 井上 幸次
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