目 的:抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害の我が国での実態を把握する.
対象と方法:日本角膜学会の会員全員に対して調査票を配布し,2009年1月から2011年12月の間に経験した抗腫瘍薬全身投与による角結膜障害の症例に関して,その患者背景・臨床所見・治療および予後についての情報を集積・解析した.
結 果:66施設より221例の報告があり,210例(95.0%)で,抗腫瘍薬としてテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合薬(ティーエスワンⓇ,以下,TS-1)が使用されていた.角膜所見は192例(86.9%)であり,その内訳は点状表層角膜症161例(72.9%),クラックライン55例(24.9%),シート状上皮異常38例(17.2%),びらん15例(6.8%)であった.結膜・睫毛所見は,49例(22.2%)で認められた.涙道閉塞・狭窄は81例(36.7%)で認められた.ロジスティック解析の結果,TS-1による障害について,他覚所見および視力の改善に有意に関与する因子として薬剤の中止・変更があげられた.
結 論:抗腫瘍薬,特にTS-1による角結膜障害は,重要な合併症であるが,現状では薬剤の中止・変更以外に有効な治療法がない.今後プロスペクティブな研究でさらなる病態解明と発症予測・予防への方向づけが望まれる.(日眼会誌121:23-33,2017)