論文抄録

第121巻第11号

平成28年度日本眼科学会学術奨励賞受賞論文総説

WNT7B多型と近視発症機序
三宅 正裕
京都大学大学院医学研究科眼科学教室

我々は,「長浜スタディ」のデータを用い,近視に関連する遺伝子異常を調査した.第1段階では「長浜スタディ」に参加しゲノムスキャンが施行された3,248名を用い,屈折・眼軸長・角膜曲率半径に対してゲノムワイド関連解析(GWAS)を施行した.関連が示唆された変異につき,第2段階として別の3,460名を用いて検討した.再現性が確認された変異は第3段階として中国人2,774人と欧米人2,690人を用いてさらに再現性の確認を行った.この結果,WNT7B遺伝子中のrs200329677が眼軸長と角膜曲率半径に非常に強く相関していたほか,過去に近視との関連が再現性をもって確認されてきたGJD2遺伝子中のrs11073058が眼軸長と屈折に強く相関していることも確認できた.WNT7B遺伝子変異と眼軸長・角膜曲率半径の相関は,中国人・欧米人でともに確認され,メタアナリシスの結果,眼軸長とはp=3.9×10-13,角膜曲率半径とはp=2.7×10-40の相関を認めた.GJD2遺伝子変異とWNT7B遺伝子変異の統計学的交互作用を評価したところ,アジア人で,WNT7B rs10453441の遺伝子型によりGJD2 rs11073058の近視化作用が増強されるという交互作用を認めた.WNT7Bは今後の近視の機序解明にあたって非常に重要な分子であり,今後のさらなる研究が期待される.(日眼会誌121:847-856,2017)

キーワード
近視, 多型, ゲノムワイド関連解析, 眼軸長, 角膜曲率半径, 長浜スタディ
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