論文抄録

第122巻第11号

受賞論文総説

平成29年度日本眼科学会学術奨励賞
ヒトiPS細胞からの協調的な眼組織発生と角膜上皮再生医療への応用
林 竜平1)2)
1)大阪大学大学院医学系研究科幹細胞応用医学寄附講座
2)大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座

眼は,異なる細胞系譜の原基より構成される複雑な器官である.例えば,網膜は神経外胚葉,角膜上皮,水晶体は表面外胚葉,虹彩実質や角膜内皮・実質は神経堤が起源である.近年,induced pluripotent stem cells(iPS細胞)や胚性幹細胞(ES細胞)といった多能性幹細胞を用いた研究により,特に細胞の自己組織化に基づく網膜組織再生やその発生機構については詳細に研究されており,2014年には世界初のiPS細胞由来網膜色素上皮移植が実施された.一方,前眼部の角膜上皮については,長らく多能性幹細胞からの分化誘導法が確立されず,さらにその単離法も確立されていなかった.我々はヒトiPS細胞から角膜上皮原基を含む眼の種々の細胞系譜から構成される多帯状領域を有するコロニー(self-formed ectodermal autonomous multi-zone:SEAM)の誘導に成功した.ヒトiPS細胞コロニー中に誘導される同心円状の各領域には,網膜,神経堤,水晶体,眼表面上皮細胞の各原基が規則正しく誘導されており,その発生パターンは実際の眼発生を高度に模倣していると考えられた.さらには,その中から角膜上皮細胞にコミットした細胞のみを細胞表面抗原の組み合わせにより選択的に単離する方法を開発し,純度の高い機能的な角膜上皮組織を再構築することに成功した.得られたヒトiPS細胞由来角膜上皮細胞シートの家兎角膜上皮幹細胞疲弊症モデルへの移植により,角膜上皮層を再建し,角膜バリア機能を改善することに成功した.(日眼会誌122:841-850,2018)

キーワード
ヒト多能性幹細胞, 細胞自律的分化, 角膜上皮, 眼発生, 再生医療
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〒565-0871 吹田市山田丘2-2 大阪大学大学院医学系研究科幹細胞応用医学寄附講座 林 竜平
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