論文抄録

第122巻第11号

受賞論文総説

平成29年度日本眼科学会学術奨励賞
三次元前眼部偏光光干渉断層計による濾過胞内の瘢痕化評価
福田 慎一
筑波大学医学医療系眼科

線維柱帯切除術では,術後に生じる濾過胞の瘢痕化の程度が手術成功の成否を決める重要な鍵である.瘢痕化抑制を目的に代謝拮抗薬が併用されるようになり成功率は飛躍的に上昇したが,瘢痕化を定量的に評価する方法は未だ存在しない.高度に瘢痕化した濾過胞は細隙灯顕微鏡検査で評価可能であるが,初期の瘢痕化の徴候を見極めることが重要である.通常の前眼部光干渉断層計(OCT)では原理的に濾過胞内部の質的性状を評価できないため,我々は組織内部の瘢痕化を描出できる次世代型偏光OCTを開発した.機能が低下した濾過胞では偏光位相差が増大し,内部の瘢痕化を確認したが,定性的評価に限られ術後早期の詳細な変化の検討は困難であった.そこでさらに,偏光位相差を数値化し,線維柱帯切除術後の瘢痕化の変化を定量的かつ経時的に解析した.術後2週までは偏光位相差の増大を認めなかったが,術後1か月では有意に増大していた.術後1か月の時点で偏光位相差が増大していた症例のうち,55.6%でその後に濾過胞機能が低下した一方,術後1か月の時点で偏光位相差が増大していなかった症例では,濾過胞機能が低下したのは7.7%であった.術後早期の偏光位相差増大の検出は,その後の濾過胞機能の予測に有用である可能性が示唆された.本稿では,前眼部OCTによる濾過胞観察の歴史から,最新の偏光OCTを含め臨床所見などとの関連や濾過胞機能の予後推測について考察し,概説する.(日眼会誌122:851-858,2018)

キーワード
三次元前眼部偏光光干渉断層計, 線維柱帯切除術, 濾過胞, 線維化, 瘢痕化
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