論文抄録

第122巻第12号

臨床研究

眼瞼けいれん,片側顔面けいれんにおけるボツリヌス治療効果の比較
岩佐 真弓1), 南雲 はるか1), 引田 俊一1), 山上 明子1), 田尻 美香2), 河本 ひろ美1), 井上 賢治1), 若倉 雅登1)
1)井上眼科病院眼科
2)井上眼科病院麻酔科

目 的:眼瞼けいれん(BS)および片側顔面けいれん(HS)に対し,A型ボツリヌス毒素(BTX)の治療効果を検討する.
方 法:2014年11月から1年間の当院でのBTX施注症例に対し調査票の質問を行った.前回治療前,治療後最善時,および今回治療直前の自覚症状をnumerical rating scale(NRS)を用いて評価した.また,注射効果の自覚的持続期間,重症度と治療効果や持続期間との関係,治療脱落の有無,副作用を集計した.
結 果:BS 1,224例,HS 519例の回答を得た.BTX施注前のNRSはBS 6.4,HS 5.2と,BSで高スコアであった(p<0.0001).BTX施注後NRSの平均は,BSでは3.6,HSでは2.2に改善した.BTX治療効果の持続期間は,BSで平均2.6か月,HSで平均3.6か月であり,HSはBSより効果が持続した(p<0.0001).BSの28.3%,HSの24.1%が調査票実施後2年以内に脱落した.治療継続群と脱落群との間ではNRSやBTX治療効果の持続期間に差はなかった.副作用の自覚は36.6%であった.
結 論:BTX治療はBS,HSの症状改善に有効と考えられた.BSではHSと比較してNRSが高く,またBTX治療効果の持続期間も短く,BSが不随意運動以外に感覚的・精神的症状を伴いうる複雑かつ症状の強い疾患であり,BTX治療では不随意運動以外の改善効果が乏しいためと推量した.BSはHSより自覚症状が強く治療効果も低いという臨床的特徴を考慮した対応が必要と考えられる.(日眼会誌122:905-911,2018)

キーワード
眼瞼けいれん, 片側顔面けいれん, ボツリヌス治療, numerical rating scale, 治療効果持続期間
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