背 景:糸状菌による角膜炎は難治であり,治療終了の判断が難しい.今回我々は,Beauveria bassiana(B. bassiana)による角膜炎に対して点眼治療により改善を得るも再発し,最終的に治療的角膜移植術を要した症例を経験した.
症 例:症例は66歳の男性で,糖尿病網膜症の既往があった.竹やぶで右眼を突き目し,眼痛,視力低下を訴え,当院を紹介受診した.角膜中央部に類円形の潰瘍と表層に限局した浸潤を認め,角膜擦過物の鏡検で糸状菌を認めた.のちに真菌培養でB. bassianaが発育した.ピマリシンおよびボリコナゾールによる点眼治療を3か月間行い,角膜所見が改善したため点眼を中止した.しかし1か月後に角膜深層病変が出現し,薬物療法を再開するも徐々に悪化した.初診から7か月目に治療的角膜移植術を施行し,摘出角膜の病理組織診で内皮およびDescemet膜に真菌の残存を認めた.最終的に新鮮角膜を用いた全層角膜移植術を行い,真菌感染の再発はみられない.
結 論:B. bassianaによる角膜炎は進行がきわめて緩徐であり,治療終了の判断は慎重に行う必要がある.B. bassianaによる角膜炎は角膜浅層に限局した病変を呈するとされているが,角膜深層に波及する場合があることが示唆された.(日眼会誌122:523-528,2018)