論文抄録

第123巻第1号

臨床研究

上斜筋麻痺に対する僚眼下直筋後転術が上下偏位に与える効果の検討
古森 美和, 鈴木 寛子, 彦谷 明子, 堀田 喜裕, 佐藤 美保
浜松医科大学眼科学教室

目 的:上斜筋麻痺に対する僚眼下直筋後転術が上下偏位に与える効果と影響する因子を検討する.
対象と方法:2002年4月から2017年3月までに浜松医科大学医学部附属病院眼科で片眼性上斜筋麻痺と診断され,僚眼の下直筋後転術を受けた患者を診療録から30症例抽出した.内訳は先天性13例,後天性17例で,鼻側移動を17例が受けており,斜視手術既往歴は15例に認められた.術前後の遠見斜視角から,上下斜視角の変化(矯正量)を求め,下直筋後転量で除して単位矯正量〔prism diopters(PD)/mm〕としたものを手術効果とした.発症原因,鼻側移動の有無,手術既往の有無で比較し,検定にはMann-WhitneyのU検定を用いp<0.05を有意差ありとした.
結 果:30症例の手術効果(平均値±標準偏差)は2.9±1.9 PD/mmで,後天性では,鼻側移動なし群(3.7±0.9 PD/mm)があり群(2.2±1.4 PD/mm)より手術効果が有意に大きく(p<0.05),先天性では,鼻側移動なし群(1.8±1.1 PD/mm)があり群(4.6±3.0 PD/mm)より有意に小さかった(p<0.05).手術既往は,後天性(なし群:2.7±1.4 PD/mm,あり群:2.8±1.8 PD/mm),先天性(なし群:3.0±1.0 PD/mm,あり群:3.1±2.9 PD/mm)で,いずれの群間にも有意差を認めなかった.
結 論:後天性上斜筋麻痺に対する僚眼下直筋後転術の上下偏位への手術効果は,鼻側移動する際は,しない場合より減弱する.先天性上斜筋麻痺に僚眼下直筋後転術を行う際には,手術効果にばらつきを生じる可能性を念頭におく必要がある.(日眼会誌123:45-50,2019)

キーワード
僚眼下直筋後転術, 鼻側移動, 上斜筋麻痺, 上下偏位, 斜視手術
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