論文抄録

第123巻第2号

臨床研究

加齢に関連して発症した小角度の上下斜視における外方回旋偏位と優位眼
大平 明彦
若葉眼科病院

目 的:加齢に関連して発症した小角度上下斜視患者で,回旋斜視角を計測し,優位眼の上下斜視への影響を調べる.
対象と方法:対象は50歳以降に発症した12△以下の上下斜視患者で,眼底写真を得られた35名(年齢は平均値±標準偏差:72.5±8.7歳)の患者.上下斜視角は交代プリズム遮閉試験で,自覚的回旋斜視角は大型弱視鏡で測定した.他覚的回旋偏位角は眼底写真から中心窩と視神経乳頭中心を結ぶ直線が水平線となす角度(disc fovea angle:DFA)を調べた.優位眼は穴あき法で同定した.
結 果:自覚的回旋斜視角は7.3±3.9度(n=35)であり,そのうち23例は6度以上であった.DFAは,右眼では11.8±4.5度,左眼では12.8±4.2度であった(各々n=35).この値は両眼とも既報の高齢正常者群よりも有意に大きかった(p<0.01).DFA値は下斜位眼のほうが上斜位眼よりも有意に大きかった(13.3±4.3度と11.3±4.3度;p=0.03).下斜位眼が左眼であったのは21例,右眼であったのは14例であった.非優位眼が左眼であったのは21例,右眼であったのが8例であった.残りの2例は両眼利きで,優位眼未検査が4例であった.下斜位眼では非優位眼が優位眼の約2倍存在した.下斜位眼が左右眼のどちらになるかは,その眼が優位眼か非優位眼のどちらであるかに関連していた(p<0.05,Fisherの正確確率検定).
結 論:加齢関連上下斜視では,DFAは両眼とも正常高齢者より増大しており,下斜位眼のDFAは上斜位眼よりも大きい.下斜位眼の左右と優位眼の左右は関連していた.(日眼会誌123:161-166,2019)

キーワード
加齢, 上下斜視, 外方回旋, 優位眼, sagging eye症候群
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