論文抄録

第123巻第4号

基礎研究

特集 学会原著:第122回日眼総会
リソソーム代謝異常患者iPS細胞に由来する網膜色素上皮細胞におけるオートファジー障害
鈴木 崇弘1), 鈴木 康之1), 佐藤 健人2)
1)東海大学医学部専門診療学系眼科学
2)東海大学医学部基礎医学系生体防御学

目 的:シアリドーシスはリソソーム酵素であるノイラミニダーゼI遺伝子の変異によって起こるリソソーム代謝異常である.網膜にcherry red spotを生じ,しばしば視覚障害を伴う.本研究では患者血液より樹立した誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)を用いて,これから誘導した胚様体,および網膜色素上皮(RPE)について検討した.
対象と方法:シアリドーシス患者末梢血よりiPS細胞を樹立し,三次元培養により胚様体を誘導した.その一部は光学顕微鏡および電子顕微鏡により観察,ほかは平面培養に移行して出現したRPEシートを単離した.RPEの樹立とオートファジー反応についてはLC3に対する免疫染色,定量的リアルタイムpolymerase chain reactionおよびウェスタンブロッティング法を用いて評価した.
結 果:培養中にみられた胚様体において,シアリドーシス患者由来細胞では形状が不規則であり,脂肪滴および損傷したミトコンドリアなどの細胞成分で満たされた空胞が増加していた.RPEは上皮シート状の形態でタイトジャンクションを有し,RPEマーカーを発現していた.シアリドーシス患者由来RPEではシアル酸含有複合糖質の蓄積がみられ,オートファジー反応については対照の飢餓条件でのLC3発現量に対し22.7%,LC3 puncta数,面積においては患者由来細胞では対照に対し,通常条件下では39.1%,30.1%,飢餓条件下では72.4%,66.6%と低下していた.
結 論:シアリドーシス患者由来RPEでは顕著なオートファジー障害が認められるとともに,分化誘導過程でも細胞内老廃物の処理過程に特徴的な障害を観察した.RPEのオートファジー障害がシアリドーシス患者における視覚障害の一要因となる可能性を示唆した.(日眼会誌123:373-382,2019)

キーワード
シアリドーシス, リソソーム代謝異常, 誘導性多能性幹細胞(iPS細胞), 網膜色素上皮細胞, オートファジー
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