論文抄録

第123巻第4号

臨床研究

特集 学会原著:第122回日眼総会
抗血管内皮増殖因子薬の硝子体内注射時における抗菌点眼薬の減菌化効果
若林 美宏1), 熊倉 重人1), 川上 摂子1), 村松 大弐1), 馬詰 和比古1), 山本 香織1), 根本 怜1), 上田 俊一郎1), 渡邉 陽子1), 杉尾 嘉宏2), 後藤 浩1)
1)東京医科大学臨床医学系眼科学分野
2)参天製薬株式会社

目 的:抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射時に眼内炎予防目的で使用される抗菌点眼薬について,単独療法とサイクリング療法の減菌化効果を比較検討する.
対象と方法:2014年6月から2016年10月までに滲出型加齢黄斑変性(AMD)または網膜静脈閉塞症(RVO)に伴う黄斑浮腫の治療目的で受診し,導入期として1か月ごとに3回連続で抗VEGF療法を施行した38例38眼を対象とした.点眼薬は各硝子体内注射の前後に3日間投与した.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼液を反復して単独投与する群(LVFX単独投与群)と,LVFXと眼科用セフメノキシム塩酸塩(CMX)点眼液を各注射施行時に交互に変更して投与する群(サイクリング療法群)の2群を無作為に割り付けた.注射前の点眼前後に結膜擦過物の培養を行い,主要常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の最小発育阻止濃度(MIC)を検討した.
結 果:初回注射前の点眼後および3回目の注射前の点眼後における減菌化率は,LVFX単独投与群が各々75.0%,53.8%,サイクリング療法群が72.7%,72.7%となったが,両群間に統計学的な有意差を認めなかった.初回注射前の点眼前と導入期3回目の注射を終えた次の受診時における表皮ブドウ球菌に対するLVFXの平均MIC(μg/mL)と95%信頼区間は,LVFX単独投与群で平均値0.56(95%信頼区間の下限値~上限値:0.11~3.00)から28.02(5.91~132.89)に,サイクリング療法群で0.51(0.06~4.01)から10.56(1.68~66.53)に変化し,両群ともMICは有意に上昇したが,両群間に統計学的な有意差を認めなかった.
結 論:抗VEGF療法時に行う抗菌点眼薬の投与は,低感受性菌の増加に留意する必要がある.(日眼会誌123:395-401,2019)

キーワード
硝子体内注射, 抗菌点眼薬, 術前減菌化, 最小発育阻止濃度(MIC)
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〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-7-1 東京医科大学臨床医学系眼科学分野 若林 美宏
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