Society 5.0で実現する医療では,サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合により,医療施設中心型の医療から患者・市民を中心とした日常生活圏で予見的・生涯的な医療が行われる.とりわけ,高齢化・デジタル化の進む現代社会において視機能の質はquality of life(QOL)の向上に重要である.ドライアイは本邦で2,000万人が罹患する最も多い眼疾患の一つであり,今後も増加が推察される.ドライアイの多様な症状による視覚の質の低下は生涯にわたりQOLの低下を起こす.ドライアイは,環境因子,生活習慣,宿主因子などが複合的に関連する多因子疾患である.Society 5.0の実現を目標としたドライアイの診療の質の向上には,個々人の自覚症状の多様性の理解や関連する病因の見える化・層別化により,発症・重症化を未然に防ぐ先制医療や個別化医療が重要である.そこで,我々はiPhoneアプリケーション「ドライアイリズムⓇ」を用いて,個々人のドライアイの症状や生活習慣などに関するビッグデータを収集している.本研究からドライアイ症状の重症化因子,ドライアイ未診断者の特徴,ドライアイ症状の重症化と抑うつ症状との関連を明らかにした.これらの成果はドライアイ患者に対して,モバイルヘルスによる個別の早期の予防および効果的な介入につながる可能性があり,将来のドライアイ診療の先制・個別化医療に資するものと考えられる.(日眼会誌124:861-872,2020)