論文抄録

第124巻第11号

受賞論文総説

令和元年度日本眼科学会学術奨励賞
神経網膜由来レチノイン酸による脈絡膜血管発生制御機構
後藤 聡
大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室

脈絡膜の血管形成および維持には網膜色素上皮細胞(RPE)から分泌される血管内皮増殖因子(VEGF)が重要であることが報告されている.さらに,脈絡膜血管の機能異常が加齢黄斑変性(AMD)をはじめとする視覚障害の原因疾患を引き起こすことも知られている.しかし,発症の起点となる脈絡膜血管の発達形成の分子機構については,その臨床的重要性に反して理解が進んでいない.我々は,神経網膜特異的に発現するアルデヒド脱水素酵素の一つであるAldh1a1の遺伝子欠損マウスの背側脈絡膜が低形成であることを発見した.さらに,その病態メカニズムとして,Aldh1a1から合成されるレチノイン酸が胎生期においてRPEでの転写因子Sox9の発現を増強し,このSox9が脈絡膜側に分泌されるVEGFを調節することで脈絡膜血管形成を制御することを明らかにした.脈絡膜の発生が脈絡膜以外の部位から制御されるという本研究成果は,AMDを含めた網膜・脈絡膜疾患の病態解明および原因遺伝子検索,そして発症前診断や治療法開発に対し新たな知見を提供することが期待される.(日眼会誌124:873-885,2020)

キーワード
脈絡膜血管, レチノイン酸, 網膜色素上皮細胞, 血管内皮増殖因子(VEGF), Sox9
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