クリスタリン網膜症は日本人に多い遺伝性網膜変性疾患であり,原因遺伝子は,水酸化酵素チトクロームP450ファミリーの一つCYP4V2であると報告されている.クリスタリン網膜症患者では,網膜色素上皮細胞および視細胞が変性を起こし,最終的に失明に至る.病態および治療法の解明が切望されているが,従来,患者から病変細胞を採取することは不可能であったため,病態解明が困難であった.我々は患者由来人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化誘導した網膜色素上皮細胞に対して,網羅的脂質解析を用いることで,遊離コレステロール蓄積が細胞変性を引き起こしていることを明らかにした.さらに,シクロデキストリン誘導体により遊離コレステロール蓄積を改善することで患者由来網膜色素上皮細胞の細胞変性を抑制することが可能であった.この新規の疾患発症機序の解明を通して,いまだ治療薬のない難治性疾患に対する創薬研究の進展が期待される.(日眼会誌124:896-901,2020)