論文抄録

第124巻第11号

症例報告

涙道洗浄液を用いた細胞診が診断の契機となった涙囊悪性黒色腫の1例
髙野 友理華, 嶺崎 輝海, 後藤 浩
東京医科大学臨床医学系眼科学分野

目 的:涙道に原発する悪性腫瘍はまれである.涙囊に原発した悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.
症 例:61歳,女性.3か月前から左眼の血性流涙を自覚し,前医を受診したところ,涙囊腫瘍の疑いで東京医科大学病院眼科へ紹介となった.左涙囊部に一致した皮膚に硬結を認め,涙道内視鏡による観察では涙囊内腔に黒色の滲出液が充満していた.涙囊洗浄液の細胞診でメラニン顆粒を含んだ異型細胞が検出されたため,経皮的涙囊生検を行い,悪性黒色腫の診断となった.Positron emission tomography computed tomography(PET-CT)では涙囊から鼻腔まで異常集積像がみられたが,その他の臓器には異常はなかった.外科的治療は困難と判断し,重粒子線治療と全身化学療法が行われた.治療後は腫瘤に増大傾向はなく,当院初診から1年後の時点で明らかな他臓器転移もみられなかったが,その後は通院が途絶えた.
結 論:きわめてまれではあるが,涙囊を含む涙道に悪性黒色腫が生じる可能性があるため,涙囊炎などとの鑑別に留意する必要がある.(日眼会誌124:931-936,2020)

キーワード
涙囊, 悪性黒色腫, 涙道内視鏡, 重粒子線治療
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