目 的:眼内に広範な壊死を生じ,全眼球炎様の所見を呈した脈絡膜悪性黒色腫を報告する.
症 例:症例は44歳,女性.1年前から左眼の視力低下を自覚し,他院で硝子体出血に対して手術を予定していたが,通院を自己中断していた.その後,さらに視力低下を自覚したため,初診時とは異なる眼科を受診し,諸検査の結果から脈絡膜腫瘍が疑われたが,積極的な治療は行われなかった.しかし,1か月後に左眼の眼痛を自覚したため,当院を紹介受診となった.当院初診時,左眼は全眼球炎様の所見を呈し,激しい眼痛とともに光覚はなく,magnetic resonance imaging(MRI)所見などから脈絡膜悪性黒色腫が疑われたため眼球摘出術を施行した.病理組織検査の結果,眼内には正常な組織構造はほとんどみられず,大部分は壊死組織で占められ,好中球を含む炎症細胞の浸潤もみられた.一方,壊死組織内には一部紡錘形や類上皮型の異型細胞の残影が認められ,同部位における免疫組織化学染色の結果と合わせ,悪性黒色腫の診断に至った.
結 論:まれではあるが脈絡膜悪性黒色腫では眼内で腫瘍組織が壊死に陥り,炎症所見が主徴となることがある.全眼球炎様症状を呈する病態の鑑別疾患として,脈絡膜悪性黒色腫も考慮する必要がある.(日眼会誌124:77-82,2020)