論文抄録

第124巻第3号

特別講演I

第123回 日本眼科学会総会 特別講演I
網脈絡膜の生体イメージング―基礎から臨床,そして人工知能へ―
小椋 祐一郎
名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学

1.アクリジンオレンジによる白血球蛍光造影
我々は,1993年に核染色色素のアクリジンオレンジ(acridine orange)と走査レーザー検眼鏡を用いて,サルやラットなどの実験動物で網膜微小循環において白血球の生体イメージングに世界で初めて成功した.その手法をアクリジンオレンジ白血球蛍光造影(acridine orange leukocyte fluorography)と名付けて,サル,ラット,マウスを用いて種々の網脈絡膜の病態で白血球動態を観察して,その病態的意義を明らかにした.特に糖尿病網膜症では非常に早期から網膜毛細血管に白血球が塞栓することを発見し,網膜虚血や血管新生の病態に白血球が深く関与することも明らかにした.このような白血球による毛細血管栓塞は,糖尿病発症初期より観察され,毛細血管瘤や血管透過性亢進に先行して起こっており,糖尿病による網膜血管内皮傷害の第一段階である可能性が示唆された.
2.超広角眼底撮影
レーザー走査の原理を応用して,眼底の80%をカバーする200°の眼底写真を撮ることのできるOptosが開発され,眼底周辺病変の意義が種々の病態で研究されている.我々も,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性,病的近視,中心性漿液性脈絡網膜症などの疾患で超広角眼底観察の意義を検討し,報告した.糖尿病網膜症での検討では,網膜無灌流領域や網膜新生血管の出現率を後極部,中間周辺部,周辺部に分けて検討した結果,中間周辺部や周辺部のみに病変を認める症例のあることを明らかにした.中心性漿液性脈絡網膜症の超広角インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影の定量的評価により,後極部のみでなく眼底全域にわたり,脈絡膜血管拡張が存在することを報告した.
3.光干渉断層撮影と光干渉断層血管撮影
光干渉断層血管撮影を用いて,中心窩無血管域が網膜症のない糖尿病患者で大きくなっていること,中心窩無血管域の経時的な増大が糖尿病網膜症の進行と相関していることを明らかにした.また,糖尿病黄斑浮腫症例の網膜毛細血管瘤の三次元解析の結果,網膜浮腫の病態に網膜深層の毛細血管瘤が関与していることを報告した.光干渉断層血管撮影が網膜静脈閉塞症の網膜循環動態の評価にも非常に有用であり,遷延性黄斑浮腫と毛細血管瘤形成の関連,治療の毛細血管瘤形成や網膜無灌流領域の変化に与える影響について報告した.黄斑疾患の光干渉断層撮影の画像を人工知能に学習させて,診断補助を行う試みについても成功した.(日眼会誌124:125-154,2020)

キーワード
生体イメージング, 白血球, 網膜微小循環, 超広角眼底撮影, 糖尿病網膜症, 光干渉断層撮影, 光干渉断層血管撮影, 機械学習, 人工知能
別刷請求先
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1 名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学 小椋 祐一郎