論文抄録

第124巻第8号

臨床研究

斜視に対するA型ボツリヌス毒素注射の治療効果
三村 治, 木村 亜紀子, 岡本 真奈, 増田 明子, 五味 文
兵庫医科大学眼科学教室

目 的:A型ボツリヌス毒素(BTX-A)注射は斜視の効能・効果の承認を受けすでに5年を経過した.しかし,日本人での各種の斜視症例に対するBTX-A注射の治療効果は明らかではない.この研究ではBTX-Aがどのような斜視に最も効果的かを検証する.
対象および方法:2015年6月から2019年5月までに兵庫医科大学病院で種々の斜視に対してBTX-A注射を行った163例を対象とした.全患者が第一眼位で複視を訴えていた.対象の診療録を,注射筋,注射回数,注射量,合併症,経過について後ろ向きに解析した.成功の評価は最終注射時から最低6か月間における正位から10プリズムジオプトリー(PD)以内の眼位と複視の消失とした.
結 果:斜視は後天内斜視47例,活動期甲状腺眼症に伴う斜視32例,外転神経麻痺26例,動眼神経麻痺18例,外斜視16例などであった.成功率は疾患によって異なり,後天内斜視51.1%,活動期甲状腺眼症に伴う斜視43.8%,外斜視12.5%,慢性期眼球運動神経麻痺4.5%であった.
結 論:後天内斜視と活動期甲状腺眼症による斜視では手術の決定にしばしば躊躇することがある.これらのタイプの斜視ではBTX-A注射は約半数の患者で成功する.(日眼会誌124:637-643,2020)

キーワード
ボツリヌス毒素, 斜視, 適応, 後天内斜視, 甲状腺眼症
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〒663-8501 西宮市武庫川町1-1 兵庫医科大学眼科学教室 三村 治
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