目 的:単一の施設で診断された遺伝性網膜疾患の原因遺伝子を検討すること.
対象と方法:名古屋大学医学部附属病院にて遺伝性網膜疾患と診断され,遺伝子解析が行われた285家系を対象とした.遺伝子解析はRDH5遺伝子と一部の家系のBEST1遺伝子に関してはSanger法で行われ,他のものは次世代シークエンサーを用いて行われた.
結 果:285家系のうち,原因遺伝子を確定できた家系は121家系(42%)であった.網膜色素変性160家系の中で59家系(37%)の原因遺伝子が同定できた.内訳はEYSが21家系と最多で,RP1が9家系,USH2Aが7家系と続いた.常染色体優性の家系ではPRPF31,伴性劣性の家系ではRPGR遺伝子が最も多かった.網膜色素変性以外では,卵黄様黄斑ジストロフィもしくは常染色体劣性ベストロフィン症と診断された16家系中の15家系でBEST1遺伝子,クリスタリン網膜症と診断された9家系中8家系でCYP4V2遺伝子,潜在性黄斑ジストロフィ(オカルト黄斑ジストロフィ)6家系でRP1 L1遺伝子の変異が同定された.また眼所見からは原因遺伝子の推測が難しい他の黄斑ジストロフィ,錐体ジストロフィ,錐体杆体ジストロフィの54家系においては,15家系(28%)で原因遺伝子を特定できた.
結 論:臨床診断により原因遺伝子が類推できる疾患では,高頻度に原因遺伝子が特定できた.また,網膜色素変性,黄斑ジストロフィ,錐体ジストロフィのような原因遺伝子が複数ある疾患でも30%程度の家系で原因遺伝子を同定でき,次世代シークエンサーの有用性が示唆された.(日眼会誌124:687-696,2020)