論文抄録

第125巻第5号

総説

進行性円錐角膜に対する角膜クロスリンキング治療
島﨑 潤1), 加藤 直子2); 円錐角膜研究会角膜クロスリンキングの手引き作成委員会
1)東京歯科大学市川総合病院眼科
2)南青山アイクリニック

円錐角膜は進行性の角膜疾患で,角膜中央部から傍中央部が菲薄化し前方突出することにより強度の近視性乱視と不正乱視が出現する.軽度の症例では自覚症状はほとんどない場合もあるが,中等度以上になると強い乱視のために眼鏡矯正視力が不良になり,ハードコンタクトレンズによる矯正が必要になる.さらに重度になると急性角膜水腫(Descemet膜破裂)を起こすことがある.急性角膜水腫後の瘢痕形成も含めて,ハードコンタクトレンズによる視力矯正が困難,あるいは装用困難な症例には角膜移植が行われる.
角膜クロスリンキング(CXL)は,円錐角膜の進行を停止させるための外科的治療(手術)である.角膜実質はコラーゲン線維が平行に走行する間をプロテオグリカンなどの架橋結合がつなぐ構造を有しており,この構造は加齢によって増えることが知られている.CXLはこの架橋構造を人工的に増やすことにより,角膜の剛性を上げて変形しにくくし,疾患の進行を停止させると考えられている.
今回我々は,円錐角膜患者へのCXLをより確実に,かつ安全に普及させることを目的として本稿を作成した.本稿が,患者および医療従事者が少しでも科学的合理性が高いと考えられる診療方法の選択肢について情報を共有し,患者の希望・信条や,医療従事者としての倫理性,社会的な制約条件なども考慮して,患者と医療従事者の合意のうえで,最善と考えられる診療方法を選択する助けとなれば,これ以上の喜びはない.(日眼会誌125:509-522,2021)

キーワード
円錐角膜, 角膜クロスリンキング, 進行停止, 適応, 治療成績
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