大規模臨床研究により,ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)αアゴニストであるフェノフィブラートは,糖尿病網膜症の進行抑制効果が示されている.我々はフェノフィブラートよりもさらにPPARαへ特異的な作用を有する選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα)であるペマフィブラートを用いて,網膜における治療効果を検討した.まず,マウス酸素誘導網膜症(OIR)モデルにペマフィブラートを投与したところ,対照群に比べ網膜の病的新生血管を有意に抑制した.またペマフィブラート投与により,肝臓の線維芽細胞増殖因子(FGF)21の発現亢進と血中FGF21濃度の上昇を認め,網膜で低酸素誘導因子(HIF)-1αと血管内皮増殖因子(VEGF)Aの発現抑制作用を認めた.さらに培養網膜細胞において,長期作用型FGF21がHIF活性に対して抑制作用を示すことも確認した.このことから,ペマフィブラートが血中FGF21濃度を上昇させることにより,HIF/VEGF系を介し網膜の新生血管を抑制していると考えた.次に,ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスに対するペマフィブラートの網膜神経機能の保護効果を検討した.STZ誘発糖尿病マウスに対してペマフィブラートを投与したところ,対照群に比べ網膜電図で低下した律動様小波(OP)が回復することを確認し,血中FGF 21濃度の上昇とトリグリセリド濃度の低下作用を認めた.またSTZ誘発糖尿病マウスの網膜において,ペマフィブラート投与により網膜神経機能への関与が示唆されているシナプトフィジンの発現が対照群に比べ亢進し,培養神経細胞において長期作用型FGF21の投与がシナプトフィジンを増加させた.これらの結果から,ペマフィブラートが血中FGF21濃度を上昇させることで,網膜でのシナプトフィジンの発現を亢進させ,網膜神経機能を保護する可能性を見出した.また,長期作用型FGF21の投与で網膜の病的新生血管の抑制作用や,神経機能保護効果,透過性亢進抑制効果があることも我々の施設より報告されている.さらに,長期作用型FGF21が肥満や脂質プロファイルの改善効果があることも報告されており,現在,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などに対する臨床試験も行われている.これらはペマフィブラートが網膜症治療薬となる可能性を支持するデータである.今回の報告では,ペマフィブラートがFGF21を介し,マウスOIRモデルでの病的新生血管の抑制作用と糖尿病モデルマウスでの網膜神経機能の保護作用があることを示し,さらに長期作用型FGF21の有効性についても示した.現在までにペマフィブラートは他の動物モデルの網膜や異なる細胞種においての有用性も示されており,今後は網膜疾患への新規治療薬としての応用も期待される.(日眼会誌125:1023-1034,2021)