光干渉断層計(OCT)を用いることで視神経乳頭および網膜構造の変化を定量的に評価することが可能となり,全身因子との関連について報告されている.メタアナリシスにおいて糖尿病は緑内障のリスク因子と報告されているが,糖尿病の原因となる耐糖能異常と乳頭周囲網膜神経線維層厚(cpRNFLT)の関係を検討した報告は稀有である.
著者らの研究グループは久山町の地域一般住民を対象として耐糖能異常とcpRNFLTの関連を検討した.2012年~2013年に久山町健診を受診した40~79歳の久山町住民のうち,緑内障治療および糖尿病網膜症を有する者を除外した1,324名を対象とした.糖尿病の診断には75 g糖負荷試験を行い,cpRNFLTはスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)で測定した.この結果,正常群に比べ,境界型糖尿病および糖尿病者の多変量調整後cpRNFLTは有意に低値であった.さらに血糖指標別にみると,空腹時血糖あるいは糖負荷後2時間血糖の上昇に伴い多変量調整後cpRNFLTは有意に低下した.
本研究の結果により境界型糖尿病の段階から網膜神経線維層の変化が出現していることが明らかとなった.今後は追跡データを含めて全身因子との関連を検討し,新たな知見を提供するためのさらなる疫学エビデンスの構築が必要である.(日眼会誌125:1048-1054,2021)