論文抄録

第125巻第2号

症例報告

実質型角膜ヘルペスの経過中にMycobacterium chelonaeによる非定型抗酸菌感染を合併した1例
宮久保 朋子1), 戸所 大輔1), 横尾 英明2), 細貝 真弓1), 秋山 英雄1)
1)群馬大学大学院医学系研究科眼科学教室
2)群馬大学大学院医学系研究科病態病理学分野

目 的:実質型角膜ヘルペスの治療経過中に非結核性抗酸菌の感染を合併した1例を経験したので報告する.
症 例:69歳女性.左眼の実質型角膜ヘルペスに対して7年間副腎皮質ステロイド点眼で治療されていたが,前房蓄膿が出現したため当科を紹介受診した.初診時の矯正視力は右1.0,左10 cm指数弁であり,左眼に前房蓄膿,毛様充血,角膜上皮欠損を伴う複数の不整形角膜膿瘍を認めた.真菌感染を疑い角膜擦過物の塗抹検鏡を行ったが,細菌・真菌を認めなかった.壊死性角膜ヘルペスとしてレボフロキサシン点眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼,バラシクロビル塩酸塩内服を開始したが炎症は遷延した.真菌性角膜炎を疑い抗真菌薬点眼を追加したが,改善は乏しかった.徐々に角膜菲薄化が進行し,角膜穿孔に至り治療的角膜移植術を施行した.摘出角膜片のZiehl-Neelsen染色にて実質深層に非結核性抗酸菌を認めた.術後はガチフロキサシンおよびトブラマイシン点眼を行った.術後1年4か月,感染の再発はなく左矯正視力は(0.2)であった.また,摘出角膜組織切片のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い,推定起因菌としてMycobacterium chelonaeを同定した.
結 論:薬物治療抵抗性の実質型角膜ヘルペスに全層角膜移植術を施行し,病理検査にて非結核性抗酸菌による角膜炎と診断した.本症例では角膜擦過を複数回にわたり行ったが,抗酸菌染色は行わなかった.副腎皮質ステロイド点眼の使用歴のある難治性角膜炎では,起炎菌として非結核性抗酸菌も想定することが必要である.病理組織のPCRは診断の補助として有用である.(日眼会誌125:136-141,2021)

キーワード
非定型抗酸菌, 非結核性抗酸菌, 実質型角膜ヘルペス, Ziehl-Neelsen染色, 病理組織診断
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