論文抄録

第125巻第6号

症例報告

Gaucher病患者に発症した牽引性網膜剝離の1例
湧川 空子1)2), 今永 直也1), 山内 遵秀1), 古泉 英貴1)
1)琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座
2)大浜第一病院眼科

背 景:Gaucher病は糖脂質代謝異常によりグルコセレブロシドが進行性に全身に蓄積する先天代謝異常症である.さまざまな眼合併症が報告されているが,牽引性網膜剝離の報告はまれである.今回著者らは,Gaucher病3型に生じた牽引性網膜剝離に対し硝子体手術を施行し,2年以上経過観察できた症例を経験したので報告する.
症 例:29歳男性.2歳時にGaucher病3型と診断された.2015年4月に近医で左眼の硝子体混濁を指摘され,徐々に牽引性網膜剝離を来したため,2018年2月に当科を紹介受診となった.初診時の矯正視力は右(1.2),左(0.05),両眼の硝子体混濁および硝子体内と網膜上に不定形な白色物が大量に存在し,左眼に広範囲の牽引性網膜剝離を認めたため硝子体手術を施行した.術中,硝子体は高度に液化していたが,肥厚した後部硝子体膜と網膜の強い癒着を認めた.輪状締結術を追加し,シリコーンオイルタンポナーデを行った.術後に網膜は復位し,徐々に白色物の減少がみられた.初回手術から98日後にシリコーンオイルを抜去した.初回手術より2年以上が経過したが,矯正視力は左(0.7)で網膜剝離の再発や白色物の再燃は認めていない.右眼に白色物の増加を認めるが,牽引性網膜剝離の所見はない.
結 論:Gaucher病では,経過中に牽引性網膜剝離を生じる可能性がある.硝子体と網膜の癒着が強固であり,手術の際は十分な注意を要する.(日眼会誌125:591-595,2021)

キーワード
Gaucher病, 硝子体混濁, 牽引性網膜剝離
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