論文抄録

第126巻第1号

症例報告

強い網膜下滲出を来した結節性後部強膜炎の1例
糸谷 真保1), 木許 賢一1), 日野 翔太1), 野田 佳宏2), 山田 喜三郎3), 石龍 鉄樹4), 久保田 敏昭1)
1)大分大学医学部眼科学教室
2)うすき眼科
3)大分県立病院眼科
4)福島県立医科大学医学部眼科学講座

背 景:強い網膜下滲出を来した結節性後部強膜炎の1例を経験したので報告する.
症 例:54歳男性.全身倦怠感と左眼の歪視と眼痛を主訴に発症3日目に当院を紹介受診した.視力は左0.8(矯正不能),眼圧は左16 mmHgであり,わずかに結膜充血がみられたが,前眼部と硝子体に炎症はなかった.眼底所見では黄斑下方に1乳頭径大の白色滲出斑と網膜出血があり,漿液性網膜剝離を伴った脈絡膜隆起病変がみられた.光干渉断層計(OCT)で滲出斑下の脈絡膜は著明に肥厚しており,網膜下腔にフィブリンが析出していた.また,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(ICGA)後期で多発点状低蛍光斑がみられた.コンピューター断層撮影(CT)検査で左眼球後壁の強膜は局所的に肥厚し,高輝度を呈した.全身に悪性腫瘍を疑う病巣はなく,転移性脈絡膜腫瘍は否定された.そのほか全身検査で有意な所見はなく,後部強膜炎と診断した.プレドニゾロン内服を60 mgより開始したところ,脈絡膜隆起病変は急速に縮小し,漿液性網膜剝離も速やかに消退した.また,初診時のICGA後期にみられた多発点状低蛍光斑がその後も長期にわたり近赤外光自発蛍光で描出された.この所見は病勢を反映するものと考え,副腎皮質ステロイドを減量する指標とした.この多発点状低蛍光斑は約4か月後に消退し,小円型萎縮巣が残存したものの視力は改善し,経過は良好である.
結 論:脈絡膜腫瘤像を呈し,結節性後部強膜炎としての臨床的特徴を満たす1例を経験した.近赤外光自発蛍光の所見が病勢を把握する一助となった.(日眼会誌126:27-35,2022)

キーワード
結節性後部強膜炎, 後部強膜炎, 脈絡膜腫瘤, 近赤外光自発蛍光, 網膜下腫瘍
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