論文抄録

第126巻第10号

症例報告

難治性の結膜病変を呈したdipeptidyl peptidase-4阻害薬関連類天疱瘡の1例
糸山 花梨1)2), 横山 勝彦1), 久保田 敏昭1), 広瀬 晴奈3), 齋藤 華奈実3), 内村 公美3), 波多野 豊3), 中武 俊二1)4), 泉 健太郎5)
1)大分大学医学部眼科学教室
2)浜の町病院眼科
3)大分大学医学部皮膚科学講座
4)九州大学大学院医学研究院眼科学分野
5)北海道大学大学院医学研究院皮膚科学教室

背 景:類天疱瘡では,眼病変として結膜上皮の扁平上皮化生による上皮化,杯細胞の消失,角膜上皮幹細胞疲弊症が起こる.Dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬は糖尿病治療薬として広く用いられる経口血糖降下薬の一つであるが,近年,DPP-4阻害薬の内服により類天疱瘡の発症リスクが上昇するという報告がみられている. DPP-4阻害薬関連類天疱瘡の眼症状についての報告はこれまでにない.我々は難治性の結膜病変を呈したDPP-4阻害薬関連類天疱瘡の1例を経験したので報告する.
症 例:69歳,男性.上肢のびらんを主訴に近医皮膚科を受診し,粘膜類天疱瘡の診断でプレドニゾロン5 mgの内服開始となった.両眼の結膜充血を認め近医眼科を受診したところ膜様物質の増生も認められ,精査加療目的で大分大学医学部附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診となった.初診時の眼病変は,右眼がFoster分類II~III期,左眼はI~II期と考えられた.当院皮膚科よりDPP-4阻害薬関連類天疱瘡の疑いを指摘され,加療目的で当院眼科に入院となった.入院後はDPP-4阻害薬の内服の中止や局所加療を行った.DPP-4阻害薬関連類天疱瘡で陽性になることが特徴とされる全長型抗BP180抗体も陽性となり,DPP-4阻害薬関連類天疱瘡と診断した.当院眼科を退院後,当院皮膚科に入院し全身加療も行われた.消化管病変の改善を認め,結膜病変については,左眼では改善を認めたが,右眼は難治性であり,現在の視力は右0.04(矯正不能),左1.0程度で推移している.
結 論:難治性の結膜病変を呈したDPP-4阻害薬関連類天疱瘡の1例を経験した.(日眼会誌126:808-813,2022)

キーワード
dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬, 抗BP180抗体, Foster分類, 類天疱瘡
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