論文抄録

第126巻第3号

評議員会指名講演I

第125回 日本眼科学会総会 評議員会指名講演I
眼科検査・治療の低侵襲化
OCT-angiographyの成長と成熟
宇治 彰人
京都大学大学院医学研究科眼科学

課題に対する本計画の論点は,「光干渉断層血管撮影(OCT-A)はフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)の代わりになり得る検査なのか?」である.侵襲的な眼科検査とは,痛み・接触・羞明を伴うもの,造影剤を使用するもの,時間がかかるもの,生検であり,これらを軽減できる検査方法の改良や代替検査の開発は検査の低侵襲化といえる.また検査精度の向上は疾病の早期発見を可能にし,結果的に治療の低侵襲化につながる.なかでも,FAは頻度は少ないが重篤な合併症を引き起こす可能性のある比較的侵襲性の高い検査であり,検査時間が長く,散瞳に伴う羞明や末梢静脈路の確保に関連した痛みも伴う.しかしながら,多くの眼底疾患の診断や治療に欠かせない検査であり,代替検査の開発・普及は眼科診療の発展に大きく貢献できると期待される.
OCT-Aは,造影剤を使用せずに高いコントラストで網膜血管像を描出することができる機器であり,比較的低侵襲なFAの代替検査として注目されているが,市販機が登場して5年以上が経った現在でもFAの代わりとして単純に置き換えることは不可能である.読影方法や治療方針の決定,効果判定を行う所見の取り方に関する科学的根拠も,半世紀以上の歴史を経て確立されたFAと比較して極端に少なく,またそもそも臨床機器として未熟である.画質が不安定であり,定量のしやすさとは裏腹に定量の不安定さが存在することは臨床機器としては致命的な欠点である.我々は,OCT-AがFAの代替検査として成熟するために,今後成長が必要な項目を明らかにし,OCT-Aの臨床機器としての完成度を高めることを計画した.
I.OCT-Aにおける血管描出能の基礎的な検討
OCT-Aにおける血管の描出方法はFAとはまったく異なる.理論的な部分は理解できても,画像処理により抽出された血流信号が実際の網膜微小循環の動態とどのような対応をしているのかを直接観察した報告はなく,未知である.今後の成長を眺めれば,なぜ映り,なぜ映らないのかを網膜微小循環を直接可視化した状態で検証することは,まさに永くブラックボックスであった領域を照らすことであり,避けては通れない.補償光学走査レーザー検眼鏡を用いて血球の動きを可視化し,血球密度や流れる血球の種類がOCT-Aの描出能に与える影響について,細胞レベルで検証した.
II.高画質化に関する検討
Volume scanから再構成するOCT-Aはその画質の安定化が大きな課題の一つである.加算平均,人工知能(AI)を用いた高画質化や,それが定量評価に与える影響について検討した.
III.広画角化に関する検討
OCT-Aの画角の狭さは当初より問題であった.近年では画角が広くなりつつあるが,一方で画角と画質はトレードオフの関係にあり,単純な広画角化が画質の低下につながることもクローズアップされてきている.現状,OCT-Aが眼底のどれほどの範囲を撮影することができ,それが臨床的にどの程度有用であるかを調査した.
IV.FAを超えるOCT-Aの機能に関する検討
FAの代替検査として期待される一方で,FA検査では得難い情報が得られるのはOCT-Aの大きな強みであり,OCT-Aが注目される大きな理由となっている.前眼部OCT-A,脈絡毛細血管板の可視化と定量評価について検討した.(日眼会誌126:298-325,2022)

キーワード
光干渉断層計, 光干渉断層血管撮影, 血流, 補償光学, 加算平均
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