論文抄録

第126巻第5号

症例報告

術後早期に角膜移植片の内皮面に線維化が生じた1例
馬場 太郎, 近間 泰一郎, 戸田 良太郎, 木内 良明
広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学

背 景:全層角膜移植(PKP)の術後早期から進行する非感染性の角膜混濁がみられることはまれである.今回,PKP術後早期に角膜移植片に線維化がみられた1例を経験したので報告する.
症 例:62歳,女性.2014年8月に両眼の円錐角膜の加療目的で広島大学病院眼科を紹介受診した.角膜形状の異常に対するハードコンタクトレンズでの矯正および装脱が困難であったため,2015年6月に左眼のPKPを施行したところ,経過は良好であった.2016年10月に右眼にも同様にPKPを施行した.術後1週で角膜実質浮腫を生じ,その後に移植片の角膜内皮面を中心に角膜混濁が拡大したため2017年6月に右眼のPKPを再度施行した.再手術の際に得られた移植片の病理組織学所見から,摘出角膜の混濁している部分に一致した筋線維芽細胞を含む組織がDescemet膜下および角膜実質内に観察された.再手術後は病的所見もなく経過良好である.
結 論:PKP術後早期から角膜移植片にみられた不可逆性の角膜混濁は,角膜実質細胞の筋線維芽細胞化あるいは角膜内皮細胞の内皮間葉転換に伴う線維化が原因と考えられた.(日眼会誌126:533-539,2022)

キーワード
全層角膜移植, 角膜混濁, 線維化, 内皮間葉転換
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