論文抄録

第126巻第9号

症例報告

中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別を要する常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症例
大音 壮太郎, 宮田 学, 三宅 正裕, 高橋 綾子, 辻川 明孝
京都大学大学院医学研究科眼科学

背 景:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式をとり,bestrophin-1(BEST1)遺伝子変異が原因である.常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症例は,中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)と鑑別が困難な場合がある.
症 例:CSCと臨床所見が類似した常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症例2例(うち1例は疑い例).2例ともに両眼眼底の黄斑部に漿液性網膜剝離を認め,網膜下に黄色病変が散在していた.眼底自発蛍光で楕円形の過蛍光像とその辺縁に円形の過蛍光所見を認めた.これらの所見は超広角走査レーザー検眼鏡による眼底自発蛍光でより明瞭となった.光干渉断層計では漿液性網膜剝離を認め,黄斑部上方の視細胞外節は障害され,不連続となっていた.脈絡膜の肥厚および脈絡膜大血管の拡張所見を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影では軽度の蛍光漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では脈絡膜血管透過性亢進所見および脈絡膜新生血管はみられなかった.これらの所見から常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症を疑い,BEST1遺伝子全エクソンシークエンシングを施行したところ,症例①で遺伝子変異を認め,常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症と診断した.
結 論:常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症はCSCと鑑別が困難な場合があり,眼底自発蛍光および遺伝子検査が鑑別診断に有用である.(日眼会誌126:751-759,2022)

キーワード
常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症, 中心性漿液性脈絡網膜症, 眼底自発蛍光, 遺伝子検査
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